新専門医制度がスタートしましたが、6年間、医療の世界から遠ざかっていた目で見ると、今回の専門医制度は、誰のための制度だろうという疑問を感じています。 専門職に、階層をつけた場合、通常はインセンティブが伴うものであります。しかし、我が国では、専門医と非専門医の給与や診療報酬に差がありません。つまり、我が国の専門医制度の重要視点に、「医師のため」はないというべきです。医師の実力・努力の成果、例えば専門医取得を評価するものは治療成績、口コミ、給与、診療報酬などが考えられます。治療成績は最も客観的な評価ですが、内科系の医療では客観化することが困難です。社会的評価である給与、診療報酬などは、自己研鑽の成果を反映し、医師の高いプロフェッショナリズム・矜持を維持・推進する上で一定レベル必要と考えれば、インセンティブのない我が国の専門医制度は「患者さんが医師を選択するため」の制度ということではないでしょうか。 「患者さんが医師を選択するため」の制度となると、我が国の少子高齢化や経済格差などに著明な地域差がある現状を考慮すれば、専門医制度は日本国内地域毎に一定のフレキシビリティが必要でありましょう。全国共通の専門医制度では画餅に帰し、「足の裏についた米粒」と揶揄された医学博士の轍を踏むことを危惧しております。 高知で専門医制度に実効性を持たせるには、高知医科大学が設立された目的や附属病院の存在意義を真摯に考え、県内で専門医についての共通認識を持つことが必要でしょう。そして、高知県内の専門研修の質を組織的に保証し、専門医取得者の技量と専門医合格率の向上を組織的にコーディネートすることが不可欠であります。 「高知の地域医療推進のために」を共通ミッションとし、医師会、基幹病院、大学、行政だけでなく、県内すべての医療機関、医学生、研修医、専攻医、専門医、指導医、医療スタッフ、基礎医学を含めた医学部教員が求められる専門医像を共有することから始め、同じベクトルを向き、サブスペシャルティを取得するまでのキャリア形成支援、学生教育・研修医教育・専攻医教育をシームレスに連動させなければならないと考える次第です。 高知地域医療支援センターは、医療法において各都道府県に求められている「地域において必要とされる医療を確保する」ことを目的とした組織です。すべては「高知の地域医療推進のために」を掲げてオール高知体制で医師確保・若手医師支援を推進したいと考えております。県内の医療関係者すべての皆様のご協力をお願いして、ご挨拶といたします。
高知地域医療支援センター
センター長 脇口 宏