コラム

第4回 高知で輝く若手医師 Part4 [2013/07/08]

高知大学医学部附属病院
総合診療部 北村 聡子先生

Profile
北村 聡子(きたむら さとこ)
平成6年3月高知県立追手前高等学校卒業
平成12年3月高知医科大学(現:高知大学)医学部医学科卒業
平成12年4月高知医科大学附属病院総合診療部研修医
平成14年4月国立循環器病センター心臓血管内科レジデント
平成17年4月同上循環器病(不整脈部門)専門修練医
平成19年4月高知大学医学部附属病院総合診療部助教

高知県出身。
上からも下からも頼りにされるベテラン医師。
趣味は合唱で、所属するグループの練習に週2回参加するほか、個人レッスンでも美声を磨く。38歳。

おせっかい医師になりたいが原点

■医師になろうと思ったきっかけは?
一生できる仕事、自分の技能で身を立てられる仕事に就きたいと考えていました。中でも、医療に興味があり、看護師、理学療法士、カウンセラーなど、人の役に立つ仕事をしたいなと。高校生のときに父が入院し病院に出入りするうちに、お医者様と話す機会があり、「医師なら何でもできる」と言われ、医師を目指して勉強しました。

■総合診療部を選んだのはなぜですか?
高校生のときの小論文に、「おせっかい医師になりたい」と書いたことがあります。患者さんにより近く接し、ご家族のケアができる医師に憧れていました。しかし、医学部で学ぶうちに、医師の仕事は限定されていて、自分がやりたかった「おせっかい」は、看護師やソーシャルワーカーの分野だったことに気づきました。
それでも、「医師としてアプローチできることはあるだろう。、内科・小児科・リハビリなどを含め、幅広い視野で患者さんを診る医師になりたい」と思いました。当時はまだ、研修医のローテートがなかった時代で、一つの科を選べば自然とその道のレールに乗り、専門を極めるしくみでした。 そんなときに、できたばかりの総合診療部の倉本先生から声を掛けていただきました。いろんな科を回って研修できる総合診療部に魅力を感じ、1期生となりました。

■地域医療への思いもありましたか?
高知県内では地域の医師不足が深刻で、私もいずれは地域へという思いがありました。道を模索する中、総合診療をやる上でも専門を持った方がいいと考え、大阪の循環器センターに勉強に行きました。その中で不整脈治療に出合い、2年間みっちりと学ばせていただきました。その後も、高知での地域医療や総合診療医への思いは変わらず、総合診療部に帰ってきました。ただ、県内でのカテーテルによる不整脈治療(アブレーション)はそれほど広く行われていなかったので、大学病院や市内の病院でのアブレーション治療の立ち上げに参加し、現在も続けています。究極の専門分野の治療ではありますが、それまで県内で知られていなかった治療法が広まり、十分な治療を受けるチャンスが増えたことは、大きな意味では地域医療だと思っています。

■大学病院での総合診療のやりがいは?
ここには、初めて大学病院に来られた方や何科を受診したらよいかわからない方のほか、「どこへ行っても治らない」「なんとか治してもらいたい」といった患者さんも来られます。まずは自分で問題点を明らかにし、診断して自分で治療を継続するとともに、専門的な診療や治療が必要と判断した場合はしかるべき専門科にご紹介します。地域の医療機関に引き継ぐこともあります。医療を「つなぐ」ということは大事なことで、大学病院だからこそ必要な入口だと考えています。
中には、ご本人が心配したような病気ではない患者さんもおられますが、「どこも悪くない」と言うだけでは、患者さんは不安と不調を抱えたまままた次の病院を探すでしょう。私はそんな病院放浪を終わりにしたいと思っています。必要ならば「体は悪くないけど、心の調子が悪いので治療しましょう」と言えるのも総合診療医だからこそ。ハリや漢方薬、抗うつ剤なども使いながら辛さを軽減するとともに、じっくりと話を聞くことも医療のうちだと思っています。
総合診療部では、待合室まで患者さんを迎えにいきます。待合室での様子を見ることも重要で、私はこの時間が好きです。最初は身なりも構わずイスでぐったりしていた患者さんが、通院するうちにシャキッとして身だしなみにも気を遣うようになるのがうれしいですね。

■不整脈治療の専門性と総合診療の両立は難しいですか?
総合診療部を訪れる患者さんには、その時その時でしてあげられることが違ってきますから、その時々に安心し、満足していただくことができればそれが私の喜びです。他科の先生に紹介し、治療を終えて元気になられた患者さんを見るのもとてもうれしいことです。
一方、不整脈のアブレーションの中には手技によって完治することがあります。患者さんは、毎日薬を飲み、旅行も行かずにビクビク怯える生活から開放されるのです。ご本人はもちろん、ご家族にとっても安心で、未来が明るくなる治療です。その場で結果が出るので、やはり達成感があります。病気に寄り添っていく総合診療との両立は、正反対だけどバランスがとれていると思います。
大学で総合診療に携わることで、専門分野でも地域貢献ができる。恵まれた環境だと思っています。

■高知の良さはどんなところでしょう?
他の先生もおっしゃっていますが、やはり食べ物がおいしいのが一番ですね(笑)。 あと、人の距離感がとてもいいです。患者と医者の距離、医者とスタッフの距離、医師同士の連携も。人と人とが密接にお付き合いできる空気があり、濃い関係を築くことができます。患者さんにも頼られ、なんとかしたいという気持ちになりますね。
高知は病院間の垣根が低く、医師同士、研修医同士の交流もあります。県内の研修医を集めて研修や勉強会も行っています。研修医に歳が近くキャリアもある、私たち世代がやるべきことだと思いますし、教育にやりがいを感じ始めています。研修医がイキイキと学び、働ける環境を整えるよう尽力したいと思っています。

■医学生・研修医のみなさんへ
総合診療医や地域医療に携わることを目指す人たちの中には、どういう道を進んだら良いか分らず、困っている人もいるのではないかと思います。今、地域で活躍している先生方は、様々な道を通ってきた、いろいろなタイプの方がいらっしゃいます。正解が分らなくて当然です。どの道を通っても、自分の目指す医師像を思いながら経験を積み、誰かの役に立てるならそれが正解かなと。いずれにしても、全ての分野、全ての問題を一人で抱えることは難しいと思います。
「わからないことは聞く」。患者さんにとって何よりも大切なことです。いつまでも謙虚な気持ちを持ち続けてほしいと思います。技術はないけど、なんとかして患者さんを救いたいと思ったあの日の気持ちを忘れないでください。

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